糖尿病診療ガイドライン改訂2019年版!

日本糖尿病学会の『糖尿病診療ガイドライン2019』が3年ぶりに改訂され、9月30日に同学会の公式サイトで公表、10月25日に発行された。
通例のガイドラインでは5月の年次学術集会で発表されていたが、今回の公表は4ヶ月遅れたが最新のエビデンスを網羅し、議論を尽くした上での策定となった。

1.治療目標:「6-7-8方式」(変更なし)
糖尿病の診断指針に変更はなく、HbA1cについて「合併症予防の目標として7.0%未満」・「治療強化が困難な際の目標8.0%未満」・「血糖正常化を目指す際の目標6.0%未満」を併記した。

 

2.食事療法:総エネルギー摂取量の算定方法を変更

2016年版では、30~59歳の日本人を対象としてBMI22の場合に疾病率が男女共に最も少ないとされていたので、標準体重=身長(m)2×22で算出して、その標準体重(kg)に3段階で設定した身体活動量を乗じた値を総エネルギー摂取量の推奨値としていたが、その主な根拠は約30年前の研究によるところである。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/2010254

しかし近年では、人口の高齢化と共に理想的なBMI値の幅が広くなっていて、昨今のBMIと死亡率の関係を検討した研究では日本人に於いて死亡率が最も低いBMIは年齢により異なり、20~25の範囲にあることなどが報告されている。https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27423262
死亡率からみると高齢者では若年者よりも至適BMIは上昇する傾向にある。

このような背景から2019年版では目標体重(2016年版の標準体重に相当)算出の係数を一律の22ではなく、年齢により①~③段階に設定すると共に目標体重に乗じるエネルギー係数(2016年版の身体活動量に相当)の設定も変更された。
係数自体は変わっていないが、労作の定義が変わっており、同じレベルの労作なら2016年版に比べ、より高い係数が適用されるケースもあり、その場合はより多い総エネルギー摂取量が算出される。
一方、栄養素摂取比率(エネルギー摂取栄養素バランス/P(蛋白質):F(脂質):C(炭水化物)バランス)の推奨値は明確なエビデンスがないことから個別化対応に留められた。
但し、「炭水化物:50~60%・蛋白質:20%・残りを脂質」とする2013年の「日本糖尿病学会の食事療法に関する提言」については、一定の目安として追随している。

「糖質制限食」については、これまでの研究では糖尿病管理に及ぼす影響が一貫しておらず、長期的な安全性も確認されていないとして、現時点での推奨は見送られた。

 

3.血糖降下薬:各薬剤の特色を追記
過去3年間では、SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬の心血管イベント抑制効果を示す大規模な臨床試験結果が数点発表されるなど、薬物療法に関する知見が深まったので2019年版ではそれらの成果を取り入れて各薬剤の特色が追記されている。

 

4.糖尿病の自己管理:CGMの有用性を強調
糖尿病の自己管理については、持続グルコースモニター(CGM)の有用性が強調されたことが特記される。
2016年版ではCGMについて血糖自己測定(SMBG)に関する解説の中で言及されていたが、2019年版では独立したステートメントが設けられ、SMBGとの比較として、リアルタイムCGMは血糖コントロールの改善に、intermittently viewed CGM〔i-CGM:flash glucose monitoring(FGM)〕は低血糖時間の短縮により有効とする報告があることが記載されたことで「頻回にSMBGを行うような患者にとってCGMは有用なツールとなる。

 

5.足病変:血糖コントロールの推奨グレードを格上げ
糖尿病足病変に対する血糖コントロールの重要性が強調された。
2016年版のステートメントでは、足病変の危険因子である神経障害や大血管症の予防に血糖コントロールを推奨していたが、2019年版では足病変の発症や切断予防にも有効だと追記され、推奨グレードもBからAに格上げされた。

 

6.歯周病:歯周病治療の推奨グレードを格上げ
歯周病治療が血糖コントロールの改善に有効であることも強調され、推奨グレードは2016年版のBからAに格上げされた。

 

7.糖尿病に合併した高血圧:第一選択薬は4クラス薬に増える
糖尿病に合併した高血圧に対する降圧薬として、2016年版ではACE阻害薬とアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)を第一選択薬とすることをグレードAで推奨していたが、2019年版では両クラス薬に対する推奨度をBに格下げし、両クラス薬だけでなく、カルシウム拮抗薬、サイアザイド系利尿薬も推奨し、第一選択薬は4クラス薬に増やした。

この推奨を行うに当たり、国内の研究グループが16報のランダム化比較試験(RCT)のメタ解析を行っていて、その結果心血管系アウトカムの発生を抑制する効果に於いて、ACE阻害薬及びARBが他の降圧薬に優れるというエビデンスは認められず、推奨内容を変更している。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30948835
但し、微量アルブミン尿や蛋白尿が認められる場合には、ACE阻害薬およびARBの推奨が維持される。
糖尿病に合併した脂質異常症:LDL-C目標値に70mg/dL未満を追加
糖尿病に合併した脂質異常症のLDL-C目標値については、2016年版では冠動脈疾患の既往の有無だけで設定しており、既往がない場合は120mg/dL未満、既往がある場合は100mg/dL未満としていたが、
2019年版では冠動脈疾患の既往に加え、ハイリスク病態を合併する場合には更に厳格な70mg/dL未満という目標値を設定した。但し、120mg/dL未満、100mg/dL未満については「目指す」に対して、70mg/dL未満については「考慮する」と表現している。
ハイリスク病態とは家族性高コレステロール血症、非心原性脳梗塞、末梢動脈疾患などである。
脂質異常症治療薬については、スタチンを推奨度Aとする点は2016年版と同様だが、2019年版ではスタチンに併用する薬剤として、エゼチミブ、PCSK9阻害薬が推奨度Bで追加された。フィブラート系薬は推奨度Bのままで変更はない。

 

8.2型糖尿病の発症予防:発症リスクを低下させる薬剤、上昇させる薬剤を明記
2型糖尿病の発症予防について、2019年版ではQ(Question)及びCQ(Clinical Question)の数は2016年版からの1項目増えて10項目となり、内容がより具体化している。
(例:肥満については、生活習慣で2kg前後の減量や高度肥満者に対する減量手術の有効性が明記されている)
追加されたQuestion は睡眠に関して、短時間及び長時間睡眠、睡眠の質の低下、昼寝のし過ぎが2型糖尿病の発症リスクと関連することが記載された。
2型糖尿病の発症予防効果がある血糖降下薬としては、2016年版ではビグアナイド薬、αグルコシダーゼ阻害薬、チアゾリジン薬の3クラス薬が挙げられていたが、2019年版では基礎インスリン、GLP-1受容体作動薬が追記された。
また、降圧薬の中でARBとACE阻害薬は2型糖尿病の発症リスクを低下させることが新たに記載された。
一方、サイアザイド系利尿薬、スタチンは2型糖尿病の発症リスクを上昇させることが指摘されたが、スタチンについては「同薬の不利益は心血管イベントの抑制効果を上回るほどではない」ことも明記されている。

以上、2019年版では「個別化」が強調されていて、臨床医の判断に委ねる側面が大きくなっている。
尚、今後も改訂を重ねていく予定とのことなので注視していかなければならない。

 

 

追記

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